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化け物/富士/夕立/藪医者/金

<化け物>

化け物/富士/夕立/藪医者/金_f0148098_14342248.jpgある女の亡者が、地獄のえん魔大王の前へ進みでまして。

「えん魔大王様、私の亭主は、他の女と一緒になりたいばかりに、わたしを殺しました、恨んでも恨みきれません、どうか幽霊になって亭主を懲らしめてやりたいと思いますので、どうか、私を幽霊にしてくださいませ。」

「なに、幽霊とな、ううん、いかん、その方の顔を水鏡で見てみよ、幽霊にもいちおう、品位と言うものがある、その方を幽霊にする訳にはいかん。」

女の亡者が、そこで泣き崩れますと、そばにいた鬼が、哀れと思いましたのか、

「これ、その方が、幽霊と申すからいけないのだ、化け物と言って願え、化け物と。」


<富士山>

化け物/富士/夕立/藪医者/金_f0148098_14343778.jpg昔は、富士の山へ登るなんてのは、けっこう大変だったんだそうでございます。

「富士の山へ行ってきました。」
「偉いですなぁ、お山はご無事でしたか。」
「見晴らしがよかったですよ。」
「じゃ、あたしのうちの二階の物干しに、浴衣が干してあるの、見えましたか。」
「いや、駿河の山のてっぺんから、江戸の神田の物干しは、見えませんでしたねぇ。」
「いや、不思議な事があるもんですねぇ、うちの物干しからは、富士の山はよく見えるんですけれども。」


<夕立屋>

化け物/富士/夕立/藪医者/金_f0148098_14345152.jpg「暑いねぇ、こういう暑い日には、一雨ざーっと来てくれるとありがたいんだけど。」
「えー夕立や夕立、えー夕立や夕立。」
「なんだい、あの夕立屋ってのは、雨を降らそうってのかな、面白い、呼んでみよう、おおーい、夕立屋。」
「へい、毎度ありがとうございます。」
「お前さん、夕立屋ってぇくらいだから、雨を降らせるのかい。」
「へぇ、さようでございます。」
「へぇ、で、いくらなんだい。」
「へぇ、これはもうほんのおこころざし程度で結構でございます。」
「そうかい、じゃさっそく、三百文ほど降らしてもらおうか。」
「へ、かしこまりました。」

なんてんで、男はしばらく呪文を唱えておりましたが、やがて雨がざーっと降ってまいりまして。

「おや、おかげて涼しくなったよ、だけど、こうして雨を自由に降らせたり、止ませたりできるなんて、お前さん、ただの人間じゃないね。」
「はい、実はわたくしは、空の上に住んでおります、龍(たつ)、でございます。」
「なるほど、道理で不思議な術を知ってなさる、だけどねお前さん、夏暑い時は、こうしてお前さんが、雨を降らしていれば商売になるけど、冬、寒くなったら、商売はどうするんだい。」
「へぇ、寒くなりましたら、息子の子龍(コタツ)をよこします。」


<藪医者>

よく下手な医者の事を「藪医者」と申します。
これは、昔、カゼなどが流行りますと、腕の良い医者は、お大名、侍、金持ちの商人などから引っ張りだこで、庶民のところへはなかなか来てくれません。
で、ああ、いいよ、たいした病気でもなし、カゼなんだから、町内のへっぽこ医者にでも見てもらおう、なんてんで、カゼが流行ると、声がかかって、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりで、カゼであっちへ行ったり、こっちへ行ったりするんで、ヤブなんだそうでございまして。
なかには、たけのこ医者なんてのもございます、どう言うのかってぇと、まだ、ヤブになる前なんだそうで、こんな医者にかかったら、目も当てられません、あの方もなんだねぇ、医者にかからなければ、死なずにすんだのに、なんてんで、ひどい医者がありますもんで。

「すいません、先生、いますか、あの、すぐ診てもらいたいんですけど。」
「おお、患者か、どのようなあんばいだ。」
「ええ、うちの裏の竹に、花が咲いてしょうがないんですよ、竹は花が咲くと枯れるなんてぇことを言うんで、一度、専門家に診てもらおうと。」
「おいおい、何を血迷っているんだ、うちは医者だ、竹のことだったら、植木屋にでも診てもらうがいいだろう。」
「でも、こちらはヤブ医者、と伺いましたけど。」


「おい、何を怒ってんだい。」
「なんをって、ここのへっぽこ医者の野郎だよ、ここんとこの流行病で、何を血迷ったか先生診てもらいたい、なんてんで、呼びにきた野郎がいるんだよ、ってぇと、あの野郎、めったに来ない患者だってんで、血相変えて飛び出しやがって、うちの子供が遊んでいた、ええ、子供がいたら、手でどけるがいいじゃあねぇか、それを野郎、足げにしていきやがった、ちくしょうめ、野郎、帰って来たら、顔がはれ上がるくらい、ぶん殴ってやろうと思って。」
「なに、あの医者に蹴飛ばされた、いやぁ、そりゃよかった。」
「何言ってやがる、蹴飛ばされて、いいわけねぇじゃあねぇか。」
「いいや、よかったよ、あの医者の手にかかってごらん、今ごろは、生きちゃぁいないよ。」


化け物/富士/夕立/藪医者/金_f0148098_14361122.jpgなかには、手遅れ医者なんてのがございまして、患者を見る、途端に手遅れだ、と言ってしまうんですな、もう、手遅れと言ったんですから、患者が死んでもしかたありませんし、たまさか、治ってしまえば、手遅れを治したってんで、名が上がる、とうまい事を考えましたが、そうそううまくいくとは限りませんで。

「先生、ちょっと、この怪我人、診てもらいてぇんですけど。」
「ううん、こりゃ手遅れだ、もう少し早いと助かったんだが。」
「手遅れですか、でも、今二階から落ちて、すぐ、連れて来たんですよ。」
「う、ううん、落ちる前ならよかった。」


落ちる前から医者には来ませんけれども、中には、葛根湯(かっこんとう)医者なんてんで、どんな患者にも、この葛根湯と言う漢方薬を飲ませてお終いにしてしまうと言う。

「ああ、次の方、どうしました。」
「ええ、どうも頭が痛いんですけれども。」
「頭が痛い、ふんふん、頭が痛いのは、頭痛と言ってな、葛根湯をお上がり、ああ、次の方、どうしました。」
「ええ、あっしは、腹が痛いんですけど。」
「腹が痛い、ふんふん、腹が痛いのは、腹痛と言ってな、葛根湯をお上がり、ああ、次の方、どうしました。」
「ええ、あっしは、足が痛いんですけど。」
「足が痛い、ふんふん、足が痛いのは、足痛と言ってな、葛根湯をお上がり、ああ、次の方、どうしました。」
「いいえ、あっしは病人じゃねぇんで、こいつが足が痛くて、一人じゃ歩けねぇんで、いっしょに付いて来ただけなんで。」
「おお、そうか、付き添いか、ご苦労だな、葛根湯をお上がり。」


<木火土金水>

化け物/富士/夕立/藪医者/金_f0148098_14365566.jpg「ねぇ、ご隠居、世の中のものは、すべて木火土金水(もくかどこんすい)から割り出されている、てぇ事を聞いたんですけど、本当ですか。」
「ああ、そう言う事を言うな。」
「じゃ、泥棒なんてぇのも、木火土金水から割り出されているんですか。」
「ああ、そうだとも、まず、どろ・ぼう、と言うくらいだから、土と木に縁がある。」
「はあはあ。」
「泥棒は白波とも言うだろ、波と言うくらいだから、水にも縁がある、それにひるトンビとも言うから、火にも縁があるな。」
「最後のひ・るトンビ、ってぇのは苦しいけど、ちゃんと木火土金水から割り出されてるんですねぇ、泥棒で土と木、白波で水、ひるトンビで火と、ね、あれ、ご隠居、これじゃあ、木・火・土・水ですよ、ひとつ足りませんよ、金(きん)がありませんよ、金(きん)、金(かね)はどこへいっちまったんですか。」
「なぁに、金(かね)が無いから、泥棒をするのだ。」

                                        (江戸小噺集)
by greenwich-village | 2008-07-17 14:10 | その他

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