下絡玉澤郎の神話

下絡玉澤郎 (しもがらみ・たまさわろう:1897~)


昨夜遅く、寝入ったころに電話が鳴った。
今頃誰だよ、と出るといきなり「あのね」と聞き覚えのある艶のない声。まぎれもなく下絡玉澤郎その人であった。
「あのね、私のことブログで書いたでしょ、読ましてもらったよ」
深夜の、突然の連絡にも関わらず「こんばんは」の挨拶もなく、こちらとしても寝ぼけたまま交わす言葉も出ないでいたが、遮るというかお構いなく話が続く。


「いやね、べつに腹を立ててるとか、そういうわけじゃないのよ。ちょっとカッコよく書きすぎてるっては思うけどね。ただね、いまゴキブリ退治屋は廃業してね、移動式ペットショップやってるのよ。地域密着型ね。小学校とか神社の前でヒヨコ売ってるのね。これがさ、基本七色あるのよ。オプションで好きな色に染めてあげられるのよ。まぁ、育っちゃったらそのうち消えちゃうんだけど、そうなる前にたいがい死んじゃうようにできてるんだけどね、でも儲かんないね、ぜんぜん売れない」

「あぁ、そうなんですか」、目をこすってやっと言葉が出たがその程度だった。

「それで気になったっていうか、読んでいて気になったのがね、あの自殺した子供をイジメてたって子、なんだか騒ぎになってるでしょ。
やっぱり罪悪感か、それともヤバイって思ったのか、騒ぎになる前に親がとっとと引っ越してたんだってね。そりゃ、黒だね。まっ黒。
人なんてものは、どんなふうに育ってきたかだから、親が親だから、子供も子供になるわけね。親がそうだとどうしたってね、子供だってそうなる。偉いも偉くないも、優秀も優秀じゃないも、正しいも正しくないも、何にも関係なくてね。子供が、自分が、どんなふうに育ったか、遺伝子なんてね、肉体的身体的なもの以外に何もない。生まれたものがどう育ったかだけね。育てたのは親ね。
イジメた子供を育てたのはその親ね。その学校の先生や校長や教育委員会の大人たちを育てたのも、それぞれの親ね。警察の人を育てたのもその親ね。
親ね。親がどう育てたかで、その人になるのね。親はなくとも良く育つ子もいるから、つまり社会ね。社会がどう育てたかね。

その親を育てたのは、その親ね。
イジメた子の爺さんは元警察か何かで、警察は勿論、教育委員会や学校にもいち早く働きかけたっていうじゃない。事実の隠ぺいね。死人に口なしね。
それで、学校も教育委員会も警察も、つるんで「なかったことにしましょう」なんだね。
我が子かわいや、我が孫かわいや、そりゃごもっとも。その爺さん、ご丁寧にブログに孫のせいじゃないって書いてブログ炎上だってね。そりゃそうだ。

我が子がかわいいから叱るんでしょ、子供たちを愛してるから指導するんでしょ。愛情も何もないのね。人が死んでるんだからね。
人が死んでも、学校も教育委員会も警察も、知らんぷりね。そういう人たちを育てた社会ね、そういう人たちを育てた親ね。
ほらね、子供たちはいつだって大人の犠牲になってるのね、大人たちの身勝手さで子供たちはグチャグチャにされているわけね。それで社会もグチャグチャなわけね。

残念ね、何がどうなったって、イジメて自殺に至らしめたその子供は、一生背負っていかなきゃならないのね、自分が人を殺したってことをね。そういう事実ね。

大人の事情、大人の理屈、大人の社会、なにが大人でいつから大人なのかわからない話ね。
大人って、つまり法的なことで、実名報道ってことね。法律的に大人ってことだけね。
爺になっても、親になっても、大人じゃないのね。警察になっても先生になっても、大人じゃないのね。
大人って、単なる利益関係ね。

政治家なんてね、「国民の生活が第一」だなんて、また得意の言葉だけね。
国民じゃなくて、支持母体だったり組織票だったり後援会だったり、それが第一ね。
そういう票集めの一部を、政治家は国民だと読んでるだけね。
政治家にとって、彼らの言葉の「国民」はね、イコール沢山の票をくれる人、ね。

国民なんて関係ないのね、支持母体だの組織票だの後援会のためだけの政治家ね。だから国民が騒いでも屁でもないのね。当選できるだけの票数が集めればいいだけね。

いわき市のね、市議会ね、最悪ね。
「大飯原発再稼働」に関して、賛成多数だっていうじゃない。現時点で原発にいちばん近い自治体のアピールね。
本来ならどう考えても反対するのが、全国に対してのアピール、意志表示じゃないの。それを賛成だって。
間違った意思表示をしたわけね。
いわき市の、あの地域の人たちが「原発稼働しましょう」って決めてるんだから、ってね。

福島第二原発も再稼働させる勢いね。

キチガイね、キチガイ以外に詩人の言葉として表現しようがないのね。
全部ね、大人ね。大人の事情ね、大人の理屈ね、大人の社会ね、損得勘定だけね。

市長は市長で是も非も言わないでのらりくらり。これもね、紐付きだからね。支持母体だの組織票だの後援会だのの、利益優先ね。市議会・市長レベルでね。だから、つまりは有権者の話ね。」


電話の向こうで何やらシャカシャカと音がする。シャカシャカとなりカチカチとなっている。
カシャカシャ、カチカチとなって、プシューという音が聞こえる。


「あ、ゴメンゴメン、色スプレーしてるのよ、ヒヨコに。油性じゃなくて水性ね。企業努力ね。買ってくれる人に喜ばれなきゃね。

それで官僚ね、役人ね、公務員ね。国や地方が雇う人たちね。
特に官僚ね。
あれは、採用規定を変えなきゃね。採用されたらすぐに雇用じゃなくて、一年間民間の会社で営業、とくに飛び込み営業をやってから採用するようにしなきゃね。
東大なり有名私立レベルあたりしか出てきてない子供たちをいきなり採用してるから、組織的に、構造的に、心理的に、頭の悪い根性がひん曲がった組織になっちゃうのね。

企業努力、営業努力、売れなかったらお金にならない、ってものを全く知らないまま、理解できないまま、体で得ないまま、記憶力だけの馬鹿のまま、官僚ね。
官僚って社会に出たことがないまま、50、60っていい歳になってしまった人たちの、大人子供組織のことね。
営業して、目の前にお客さんがいて、頭を下げて、お金になるってことがわからない人たちね。
単純にそれだけね。

給料は税金だから、放っておいても入ってくるのね。何をしてもしなくてもね。
だから、社会感覚とかけ離れてしまわけね。社会性がない人たちね。体と欲望だけが大人になった子供たちね。
資本主義でも共産主義でも、組織・官僚ってのは同じだから、そういう官僚システムだから、そういう心理だから、そういうふうにしか育ってきていないから、悪化はしても、何にも改善しないのは当然ね。
アメリカもロシアも日本も中国も、官僚は同じね。社会に出たことがない非社会的な人たちの集まりね。
そんな人たちがワラワラやってるのね、自分たちの組織のためだけに。

警察幹部も教育委員会も東京電力も、全く同じね。温室栽培なのね。一度たりとも社会に出て社会とかかわりを持ったことがない人たちね。完全なる自閉症集団ね。
おかしなことになるのは仕方ないことね。

だから、せめて採用前に、一般企業で営業職を経験させなきゃ、未来永劫何にも変わらないわけね。
お金はどこからきて、どんなふうに稼がれて、どんなふうに使われて、どんなふうに回っているのかって髪の毛一本分も理解できないまま育っちゃったのね。
そういう人たちをね、お受験で歴史年号と数式と英単語と漢字とかの記憶力だけ、社会が作り上げて、それが優秀だとか頭がいいとか持ち上げて、群がるわけね。
すぐに忘れる受験記憶力だけのお馬鹿ちゃんの増産ね。

世間の評価がそうだから、プライドだけはエレファントマン以上に肥大するのね。記憶力王ね。
そんなレベルは芸能人のクイズ番組あたりに出てればいいわけよ。この字は何と読むでしょうかって生涯絶対に使わない文字を当ててご満悦ね。
残念ながら、記憶力なんてパソコンの時代には意味がないのにね。可哀そうね、覚えること感じることがいっぱいある青春時代に、学者になるわけでもなく、ただ高級社会悪になる官僚目指して、なんにも学ばないでお馬鹿ちゃんのまま大人子供になっちゃうなんてね。
先のことが決まっちゃってるから、先のことが決まっちゃってたら、それが絶望。未来なんてないもの。決まってるんだからね。

絶望を絶望とも感じない大人子供の温室集団が、義務教育ダンス必修なんて育てて、哀れな子供たちを増産して、低い国にしていくの。
自分たちよりも高い人たちが出てきてもらっては困るから、自分たちよりも低い教育を強制するわけね。

子供たちはいつまでたっても報われない。犠牲になるだけ。」


夜中に突然電話をかけてきて、矢継ぎ早に用件だけを一方的に語る玉澤郎師だったが、話を聞きながらだんだん目が冴えてきた。


「だから、子供たちにヒヨコを売ってるの。夢があるじゃないの。色とりどりの。
アンタも今の商売行き詰ったら手伝いなさいよ、楽しいから。
いま一押しは、白黒のツートーンカラーのヒヨコ。上野にあやかって。でも本家は死んじゃったね。

本当は、うちのヒヨコはなかなか死なない。すぐに死んじゃうかもって言った方が売れるの。それならお父さんもお母さんも、まぁ小さいからいいかってね。
でもぜんぜん死なない。ちゃんと大きくなってね、コケコッコーってうるさいの。それ言ったら誰も買わなくなるでしょ、近所迷惑だとか。
嘘ついてるんじゃないから。民主党とか教育委員会とかを見習っているだけね。規模は小さいけど。

売れなかったら、さばいて食肉用にしてね。
アンタもやりなさいよ、マクダニエルとかラスベガス・ボイルドエッグだとか適当に名前つけて。
パクってるんじゃなくてね、中国を見習ってるだけね。」


と、一気にまくしたてると電話がプツっと切れた。
カーテンをよけて窓を開けると夜風が心地よかった。月は冴えわたっていた。


これ以降、下柄玉澤郎からの連絡は一切来なくなった。
そして数か月後のある日、新聞にインタビュー記事として載っているNPO法人の代表:下絡玉澤郎の名前を見つけた。
流行りの細身のスーツ姿にデザイナー眼鏡をかけ、地域活性コミュニケーションNPO法人「神話」代表と記載されていた。
立体に裁断された紙相撲のような人形を使って、3D立体紙芝居なる催しで施設や学校を回っていると書かれていた。NPO法人「神話」はニワトリ6000羽分の鶏肉を被災地に寄付し、たいそう喜ばれたという。
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by greenwich-village | 2012-07-12 12:14 | グリニッチ・ヴィレッジ

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