下絡玉澤郎の伝説

まったくの無名だが常々心の師と仰ぐひとりに「下絡玉澤郎」(しもがらみ・たまさわろう:1897~)という当代きってのゴキブリ退治の名人がいる。
全国行脚の末に体得したゴキブリ退治の神業は圧巻の一言であるが、興がのった時折さりげなく語る世相話の切り口の端々には、初夏の早朝を飾る朝露の如き一服の清涼感が漂う。



「だいたいね、尖閣諸島なんてものは、あんなものはね、時代錯誤の陣地取り合戦でしかないでしょ。漁獲高なんて知れているわけだし、海底資源の開発ね、お金をかけたほど採掘できないでしょ。一応、建て前ね。
日本では個人所有なようだけど、むかし個人がオレの島だなんて言って加工業しただけでしょ。
だいたい、日本じゃなくて、沖縄、琉球王朝ね、あそこに属していたわけでね。
いまの台湾が、固有の領地だなんていうのは全くおかしい話だね。文化大革命で台湾に逃げ込んできた中国の人たちは古くから固有もなにもないでしょ。
その時に追いやられた台湾の先住民族ならあそこの島にはうちの爺様は行ったことがある、なんて言えるだろうけど。
竹島も同じね。陣地合戦ね。
だからね、東京都でも国でも、どっちでもいいからとっとと買い上げたらね、国有化したら台湾も中国も反発するでしょ、なんで反発するかって、領土領海ってだけだから。使いもしないのにつまらない話だね。

買い上げたら、国はね、ダイナマイトで尖閣諸島のすべてを木端微塵にぶっとばして、地図の上から消滅させなきゃ。そうしなきゃ、いつまでたっても無駄な小競り合いが続くね。これはオレのだ、いや、俺のだ、って具合に。
あるから問題になる。無ければ問題にならない。あんなものはとっととぶっ壊してまっさらな海にして、200海里で均等に領海を作ればいいだよね。

同じ島でね、北方領土ね。ロシアに盗まれたところね。あれ、アメリカとロシアの合意があったって話じゃないの。上の方はあんたにやるよ、下の方は俺たちがもらうよ、ってな具合だね。
それこそ歴史的にも地図を見ても、ありゃ日本だね。ほっといたらそのうち北海道もロシアのものだなんて言い出しかねない鼻息だね、メドベージェフ。ひどいもんだね。あれで革命国家かね。
だからね、相手がそうならこっちもね、この際ね、例の原発がらみの放射能ね、北海道の網走界隈の人には移住してもらって、北方領土領海ぎりぎりのところに沈めてやるのさ。
「ここはあくまでも日本の領土で、ロシアには関係ない」とか言っちゃってね、北方領土のロシアの人たちにガン患者が続出してね。
日本はいつも通りに「因果関係があるとは言い切れない」とか言ってね。

オスプレイが日本列島の各地で低空飛行訓練するってね。他人の家の食卓で排泄するって。デカいんだから自分の国で練習すればいいのに、自分のところじゃ騒がれるから、他人の家の前にゴミを出すってね。
そんなことよくやるね、させるほうもほうだね。
何度も落っこちてるんだから落ちないわけがないでしょ、落っこちたら毎度の「誠に遺憾だ」なんて言葉ね、言葉ね、言葉ね、言葉だけね。お金かからないからね、詩人なんて貧乏だからお金のかからない言葉で遊ぶんでしょ、お国はね、詩人なんだね。言葉が美しくて納得して、家はボロボロで人が迷惑するのね。

ほら、台湾、中国、韓国、ロシア、アメリカって、この国は五か国間協議さえなくて、北朝鮮みたいにゴネることもオドすこともしないで、ただただ翻弄迷走してね。
まぁまぁ、まぁまぁ、まぁまぁ、まぁまぁ、穏便に、穏便に、ウォンビンにって具合にね。
国際社会の妾ね、大きな家と高級外車をあてがわれてかこわれたお妾さんね。旦那さんが羽振りがいい時は贅沢も出来たが、最近は行き詰ってるから、妾に与えていたものも使わなきゃって持っていかれちゃうね。旦那はセコくなるは、湯水の小遣いをやっていた子供たちは言うこと聞かなくなるはで、お妾さん、ダイエットもしていないのにやせ細って、頭ばっかりデカくなるね。」

かく語りながらも、下絡玉澤郎師はまるで手品師のような素早さでゴキブリホイホイを組み上げると、ホウ酸団子と一緒に忍者シュリ剣の如く部屋の隅々に寸分狂わずピタリと投げ収める。
その手際よさにほれぼれしていると、何やらスプレーを持ち出して角という角にプシュと吹き付ける。レモンのような柑橘系の匂いがする。
「これね、酸っぱい匂いね。ゴキブリは酸っぱい匂いを嫌うだよ。柑橘系の匂いね。」

「子供たちがね、イジメだ、イジメられた、イジメた、って時代ね。自殺しちゃうほどのね。
あれね、死ぬまでの話ってね、絶対にね、世界の縮図ね、構造ね、犠牲ね、ねずみ講と同じで一番最後の一番下に全部乗っかるのね。一番弱いところに全部乗っかるから死ぬしかなくなるのね。

愛情ね。
親たちも、学校の先生も、警察も、役人も、出世以外なら、ぜんぜん痛くないね。社会も、世界も、世の中も、実は全然問題ないのね、自分の番がくるまでは。
警察に正義があると思う?警察は正義だって固定観念ね、正義を愛して警察の職業についているわけじゃないから。
役人に社会愛があると思う?社会愛があって役人の職業を選んだわけじゃないから。
先生に子供たちへの愛情があると思う?教育愛があって先生の職業をしているわけじゃないから。
我が子と子供たちが良く育つことより、我が子の出世に興味があるのね。

自分の仕事に愛情のない世の中ね、愛情のない仕事をしている人たちばかりの社会ね。
ゴキブリ退治にも愛情が必要なんだ。ゴキブリがどんなふうに徘徊するのか、ゴキブリの気持ちにならなきゃわからないでしょ。
それに他人に喜ばれる。ゴキブリ退治の仕事に愛情を持ってるよ。

愛情ね、愛情がないから。自分の仕事に愛情がなくて、お金だけでただ職業についているだけね。
正義も社会性も、はじめから存在していないところで、社会職業としてあるだけね。
愛情ね。
愛情がないから、問題の解決を考えないで、問題が起きないでくれって立ち回るだけね。だから、問題が起きると、隠ぺいしたり知らないふりをしたり無関係のふりをしたりするのね。
大人たちのカクレンボね。
まちがいなく、「愛なき時代に生まれたわけ」なのね。

国もね、外国要人もね、先生もね、警察もね、、役人もね、もともと鼻ったらしのガキね。いつのまにか一丁前のつもりで偉そうな見栄ばかり肥大してね。
愛情なく育ってきたら、愛情ない世の中になるのは当然ね。与えられてきたものしか与えられないから。愛情が与えられたら、愛情を与えられるのね。
どんなふうに育ってきたか、どんなふうき生きてきたか、どんなふうに学んできたか、そういうことね。その結果ね。

本庁が各県県警と合同になって、風営法だってね。
シンデレラね、夜12時以降は、踊っちゃいけないんだね。夜中にダンスしてはいけない国になったんだ。
それを本庁肝いりで本気になってやってるって。
ホントだよ、12時以降、街の店店でダンスすると取り締まられるんだってね。
ハッパね、ドラッグの取り締まりで、そうなったのね。
ドラッグも酸っぱいし、ダンスホール取り締まりも酸っぱいね。柑橘系ね。どっちもプシュっとかけてやらなきゃ。

オレはね、ゴキブリ退治屋でよかったよ」


それが、下絡玉澤郎の最後の言葉になった。

玉澤郎は、これを最後にゴキブリ退治の爪を折り、以降その消息を知るものはいない。残されたものは、部屋の片隅に置かれた、芸術品のように美しく完璧に折り上げられたゴキブリホイホイだけであった。
そして、そのゴキブリホイホイにはただの一度もゴキブリがかかったことはなく、しかしなぜか玉澤郎が去ってからというもの、その家には二度とゴキブリが出たことはなかった。


かくして、下絡玉澤郎という人物の捏造と“文化”なるもののデッチあげは完了する。
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by greenwich-village | 2012-07-10 11:56 | グリニッチ・ヴィレッジ

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